今回の【呼吸の時間ですよ】は「おくたま森林セラピー×ヨガ」。取材をしたのはヨガインストラクターとして活動しながら、奥多摩で森林セラピーアシスターとしてツアーガイドもしている橋本恵子さん。「森林セラピーって聞いた事あるけど、具体的に何をするの?本当に効果があるの?」そんなところにも迫りながら、様々なフィールドを舞台に、参加者の感覚に寄り添いながら活動する恵子さんの想いをお聴きしました。
突如現れた森林セラピーという道
森林セラピーとは、森という環境をいかして、森を楽しみながらリラックス効果を得たり、心身の健康維持・増進、病気の予防を行うこと。科学的にも効果が実証されており、医療の現場でも取り入れられています。
阿部:恵子さんが森林セラピーに出会ったのはいつだったんですか?
橋本:登山をしていた時、道中の看板を偶然見かけたのがきっかけでした。看板に「森林セラピーロード」っていうのが書いてあって。「それ何⁉」という感じで。

橋本:帰った後に調べると、どうやら呼吸や癒しと深い関係があると知って。直感的に、自分が当時から既にやっていた「ヨガ」と繋がるものがあるんじゃないかって考えたんです。
ヨガのインストラクターでもある恵子さん。掛け合わせることで何か新しいことができればと、奥多摩町で実施されていた森林セラピーの研修に飛び込んでみることにしたんだとか。
阿部:どうして奥多摩だったんですか?
橋本:知人に森林セラピーの話をしたら奥多摩町のホームページで「森林セラピーアシスター募集」の概要を見つけてくれたんです。地元が青梅市で、奥多摩はとても近い存在でした。当時、何も悩まずにすぐ応募したことを覚えてます(笑)
奥多摩町は、国立公園を含む広大な森林と渓谷に恵まれた自然豊かな町。2008年4月に森林セラピー基地としての認定も受け、町全体でも森林セラピー事業に力を入れています。
阿部:具体的に、研修はどのような感じでしたか?
橋本:奥多摩町が実施している「森林セラピーアシスター養成講習会」というものを受講して、その後の試験に合格をしてやっと「奥多摩森林セラピーアシスター」として活動ができるようになりました。いざ講座に参加してみると、近くに住んでいたのに奥多摩の歴史や自然について知らないことばかり。もっと知りたい想いや奥多摩の魅力を伝えたい想いが強くなりました。
「奥多摩森林セラピーアシスター」は、町内に5コース設定されている森林セラピーロードを活かしたツアーを実施する認定ガイド。奥多摩駅から徒歩で行ける登計トレイルをはじめ、多摩川沿いの渓谷など、奥多摩の森を1日かけて満喫できるツアーや自然観察、登山、ヨガ、アロマの講師、鍼灸師など各個人のスキルを活かしたアシスターが企画するツアーを定期的に開催しています。
森林セラピー | おくたま地域振興財団 奥多摩森林セラピー
森の中での「ライブ感」を伝える
以前から登山を通して森を楽しんでいたものの、森林セラピーだからこその良さもあるようです。
橋本:山を登っていると、早く歩いてしまって周りの景色に気づかないことも多いと思うんです。
阿部:早く頂上目指さなきゃとか、周りのペースに合わせなきゃってなる(笑)
橋本:私は「この花綺麗」とか「この木ってこんな立ち方してるんだ」とか、色々と立ち止まって見るのが好きなんです。森林セラピーでは森をより五感で感じることができるのが魅力だと思っています。
阿部:その「五感」を感じてもらうために、ツアー中意識していることはありますか?
橋本:【たった今、この森の中で起こっていること】を細かく拾うようにしています。例えば「今葉っぱが落ちてきましたね」と話したりします。杉の木の近くに行ったときはなるべく新鮮な杉の葉の匂いを嗅いでもらうとか、そういうことをしていますね。
阿部:森の実況者というイメージですね!他には、何かあったりしますか?
橋本:無理矢理にではないですが、場面場面で参加者の皆さんに感じたことを気軽にシェアしていただける時間を大切にしています。
阿部:アシスターさんには「引き出す」力が必要というわけですね。
橋本:そうですね。リピーターの方は感覚に慣れているので、例えばヒノキの葉の匂いはもう知っているから、ヒノキの葉と実の香りの違いを感じて頂いたり。新しい視点とか気づきをつくるイメージです。
阿部:あくまでも押し付けではなく、自分で感じてもらうというのが大切なんですね。
橋本:森林セラピーも、参加者さんのその日の体調や心境によって変化があると思うので、その方がその時にどんな風に感じるかが大事だと思うんです。アシスターとして、それを導き出せたらいいなって思っています。
阿部:アシスターって素敵な言葉ですよね!
橋本:そうなんです。私も好きで。アシストするという意味でアシスターガイドっていうんですよね。
そして、森林セラピーとヨガは、やっぱり共通する部分も多いようで…
橋本:ヨガのレッスンで始めに「今日のご自身の体の状態を感じてみましょう」ということは毎回話しています。
阿部:自然という外界を通して、自分自身の感覚や呼吸を意識することに繋がるというわけですね!

誰かの感覚を汲み取るための”余白”
橋本:さっきから自分でも五感って簡単に言っていますが、そう簡単に紐解けるものではないと思っています。
最近、ツアー中にある学びがあったようです。
橋本:去年、高校生の障がい者の方を森林セラピーのツアーでご案内したんです。
橋本:その際、いつも通っているせせらぎの音が綺麗な川の近くにお連れしたときに「怖い」と言われたんです。
阿部:流れが急な川では無かったけれど、その方にとっては怖いものだったのか…
橋本:そうなんです。これまでは、自分が心地いいと思うものをお伝えしてきていました。そうやってきて、共感してくださった方も多かったので続けてきてたけど、「怖い」と言われてハッとして。
阿部:「川は心地いい」という固定観念が崩された、みたいな感じですよね。
橋本:これまで自分視点だけで内容を考えていたところを「参加者視点」でその人がどう感じるか、ということを改めて考えるようになったと思います。
阿部:なるほど。「感じる」という行為や五感という存在自体は一緒ですが、人の数だけ中身が違う。それを認識しながら森に入ることで、もっといろんな気づきがあるような気がします。
阿部:恵子さんご自身も、きっと多くの人の声や表情に丁寧に向かっているからこそ、どんどん多種多様な感じ方が蓄積されていっているんですね。
橋本:自分の中に材料が増えていく感じでしょうか。他の人の感じ方を汲み取れるような「余白」が大事だなと思います。

ヨガで掴んだ大切な出逢い
恵子さんがヨガに出会ったのは、2012年にお母様が亡くなったことがきっかけでした。
橋本:ガンを患った母が亡くなった当時、空っぽになったという感覚がありました。それで「何かやりたいな」と思ったときに、浮かんだのがヨガでした。
阿部:ヨガは未経験だったんですか?
橋本:昔に少し体験したことがあって。「そういえば、ヨガ気持ちよかったな」と単純に思ったんです。それで、やるなら本格的にやろう!と資格が取れる学校に通うことにしました。
阿部:ただ体験するだけでなく、インストラクターを目指されたということですね!
橋本:そうなんです。当時から、母の癌の原因はストレスだと思っていて。色んな方が抱えているストレスを無くしたいという想いがありました。
阿部:ストレスから来る病って本当に沢山ありますもんね…
橋本:おこがましいですが母の看病を通して感じたことが伝えられるような。誰かの役に立ちたいなって。
阿部:本格的に学ぶという選択をしたわけですね。
橋本:学生時代は全然勉強してこなかったというくらい、元々は勉強があんま好きじゃなかったんです(笑)でも「好きな勉強ならできる」と思ったんですよね。「ヨガの勉強ってあるの!?」という驚きもあったし。なんだかワクワクしたんです。
ヨガを始めたことで、現在の恵子さんの活動につながる素敵な出会いも。
橋本:ヨガの学校に通い始めたときに、講義の中で目標設定をする機会があって。本来なら「こんなインストラクターになりたい」とかの設定なんでしょうけど、ふと頭に浮かんだのが「生涯続く友人をつくる」でした。ずっと続けていく仲間というか、友人をつくりたいって思ったんです。
阿部:素敵ですね!実際、できましたか?
橋本:本当に、ずっと一緒にいるのが想像できる友達に出会いました。さらに、学校がきっかけで出会った仲間2人と、「和穏」というものを立ち上げました。
和穏は、3人それぞれの得意分野を活かしながら、穏やかで暖かな空間をつくり、和を広げていきたいという想いで立ち上げました。練馬区や茅ヶ崎市など、関東近郊で出張ヨガやイベントを実施しています!
https://www.instagram.com/waon_yoga/?hl=ja
阿部:行動力がすごい!どういう出会い方だったんでしょう?
橋本:1人は、何か分からないカラフルな固いケースを背負っている人をエレベーターで見かけて、気になりすぎて声をかけたのがきっかけで。聞いたらそれはヴァイオリンで、彼女はヴァイオリニストだったんですね。
橋本:もう1人は、学校で出会った友人の奥さんなんです。彼女は理学療法士を本業にしながらヨガを探究していて。仲良くなるうちに、一緒に何かしたいなって思うようになりました。

阿部:これから、お三方でどんなことをしていきたいとかありますか?
橋本:自分たちの居場所・拠点が欲しいっていうのがありますね。それができたら、それぞれの得意を活かして、ヨガは勿論、飲食店だとか、コミュニティーが広がる場所として色々やりたいことがあります。
バランスを大事に
阿部:活動をする上で、恵子さんが大切にしていることはなんですか?
橋本:常に、バランスは大事にしようと思っています。考えていることもそうだし、身体もそうなんですけれど、どこかに偏ってしまうことってあるじゃないですか。
阿部:本当ですね。それこそ、自然との関わり方や、誰かに対する気持ちなど、ふとした瞬間に偏ってしまうというのは、多くの人が経験していることなのかなと。
橋本:そうですね。なるべく、色んな立場の考え方を分かりたいなと思いますよね。
橋本:そして、考えすぎたりすると、偏ってしまって気分が落ち込んじゃうことが多い。もちろん、考えるのも大事だけど、考えすぎちゃうんですよね。
阿部:分かります!考えすぎて同じところをグルグルしながら落ち込んでいく感じ。バランスを意識するきっかけは何だったんでしょう?
橋本:ヨガをしている中で「バランス大事ですよ」って言われたことがあって。自律神経の中でも、交感神経、副交感神経があってどっちかが強くなっちゃダメで、両方必要なことだよと。これは、仏教の中道な考え方にも似ていると思います。
中道とは、2500年前に仏陀が説いた、仏教の中心的な教えの1つ。極端に偏らずに調和のとれた状態を目指すという考え方です。
橋本:基本的に、何事も白黒つけられるようなものは無くて、グレーなものだと思います。
橋本:悩んだ時に、そういうヨガの哲学が活きることはありますが、そもそもヨガの哲学なんか知らなくても、元々そういう考え方をしている人はいて、その人にとって別にヨガの哲学なんて必要ないわけで。
阿部:確かに。
橋本:私は結構ふらふらしているところがあるんです。すごく悩むこともあるし、落ち込む時はめちゃくちゃ落ち込むし。一方で、やる気が出たら止まらなくなったり。
橋本:「バランスを大事にしたい」と言ってるけど、実際自分がバランス悪いな、バランスとるの苦手だなって思うからこそそう思うんですよね。元々バランス取れてる人ってそんなこと思わない。
阿部:苦手とは意外でした‥!
橋本:結構ネガティブになりがちなので、一生懸命にバランスを取ろうとしてるかもしれない。それがだんだん自然になっていけばいいなって思っています。

阿部:ありがとうございます。今後、ヨガインストラクタ―として、または森林セラピーアシスターとしてどんなことを目指していくのでしょうか?
橋本:そうですね。ヨガに関しては森林の中もそうだし、もっと色んな場所で皆さんと活動していけたらいいと思っています。
阿部:「森林セラピー×ヨガ」は、橋本さんだからこそできることですもんね!
橋本:ゆくゆくは、他の資格も取得して、奥多摩以外での森林セラピーにも挑戦していきたいと思ってはいますが、森林セラピーアシスターとしては、ガイドを通して大好きな奥多摩をさらに盛り上げて行きたいなと思っています。
阿部:今度是非、奥多摩で恵子さんのツアーにも是非参加させてください!今日はありがとうございました!
参加してくださる方がどう感じるかという視点を常に持ち続けている恵子さん。森を歩いていても、ヨガをしている時も、それぞれが自分自身の心や呼吸、五感に目を向けリラックスできるような場づくりを徹底されているんだなと、インタビューから伝わってきました。奥多摩も初夏を迎え、綺麗な花や生き物を楽しめる季節。最近疲れたな、そんな時は是非奥多摩で、恵子さんのツアーに参加してみてはいかがでしょうか?(ライター・maya)
TEXT:maya Photo 木田正人