今回お話を伺ったのは、「呼吸の時間ですよ」初の学校の先生!昭島市の小学校で、特別支援学級の主任を務めている竹内英雄さん。学校の校庭の奥にある雑木林で、日々児童達は探究学習に取り組んでいます。自然の中で行われる教育とは一体どのようなものなのでしょうか?また「Coffee Teacher」として自身も探究をし続ける竹内さんの想いにも迫りました。
”自然を楽しむ”ことから始める環境教育

阿部:竹内さんは、元々大学で環境教育を専門に学ばれていたんですよね。
竹内:はい。
環境教育とは、ざっくり言うと様々な環境に関する社会問題が叫ばれる昨今、環境そのものに対する興味関心の醸成や、環境問題、環境保護に対する理解を深めるために行われる教育のこと。
阿部:元々、環境教育に興味があったんですか?
竹内:大学時代は野外活動で、子どもたちと関わり、環境教育を実践していました。そこで「環境教育をやるなら小学生から始めないとダメだ」って感じたんです。
阿部:小学生からだと、何が良いのでしょう?
竹内:環境教育をやる時に、まずは自然を楽しむということが大切だと思います。その上で「この自然を守りたいよね」ってなる。中学や高校の教育だと、いきなり自然保護の大切さを教えるというのが、話が飛躍しているように感じます。
阿部:確かに。いきなり地球規模の話になると、自分ごとにしづらいですよね。
しかし、当時大学で所属していたコースは中学・高校の免許しかとれないコースだったそう。
竹内:大学在学中に小学校の免許はもう取れない。だから1回卒業して、スポーツ用品店で働きながら免許を取ったんです。
阿部:なんと!それは大変なことですね…
竹内:2年間、通信制で学んでいました。その時に、小学校、主に特別支援学級の介助員もしていて、雰囲気を掴んでいました。
小学校の先生になると決めたらまっしぐら。中学・高校の教員で妥協せずにここまでやれるのは本当にかっこいい…
使われていなかった雑木林を活用した探究学習
その後、無事に小学校の教員免許も取得した竹内さん。今の自然と触れ合う体験や、自然を活かした探究学習に取り組み始めたのは、現在の小学校に赴任をしてきたことがきっかけでした。

竹内:校舎のすぐ近くにある雑木林を見た時、豊かな自然を活かして教育活動をしたい、そうすることで自分の専門性を発揮できそうだと思ったんです。 雑木林は長らく使われていなかったんですけど「来年から使わせてください」と校長先生に頼みました。
阿部:1年目はどのように雑木林を復活させていったのでしょうか?
竹内:まずは「とりあえずやってみる」ことが多かったです。元々、授業の中で畑で野菜を育てていたんですが「雑木林でも野菜育ててみたい」など、色々とやりたいことが子どもたちから出てきました。
阿部:おー!他にはどんなアイデアが?
竹内:鳥の巣箱作りたいとかも出てきましたね。そうやって、自然の中で自分たちがアイデア出したものを実際につくる中で、自然と共生するみたいな意識が芽生えたりとか、その場所自体に愛着が湧いていくようでした。
阿部:それはどのように生まれてくるんでしょうね。
竹内:自然の中で自由に遊んだりとか、枝や石を折ったり割ったりしていく中で、子どもたち自身で気づいているようです。急に「家作りたい」とか「穴掘りたい」とか言い出す。
竹内:「じゃあやってみようか、とりあえず。」みたいな感じでやっていくと、様々なものづくりに繋がる気づきが得られる。だから自然から充分に感じることができる「余白」をめちゃくちゃ大事にしてますね。
阿部:自然から充分に感じることができる「余白」…。大人にも同じことが言えそうですね。
児童を巻き込み盛り上げる「ジェネレーター」
現在、学校教育で重要視されている「探究学習」。自ら身の回りや社会の課題に対して問いを見つけ、その問いに対してそれぞれが課題を立て、探究をしていく活動です。例えば、地域の伝統産業を知り、広めていく活動や、興味のある分野で大学生並みの研究を実施し学会で発表するなど、学校や児童生徒によって自由度が高いのも特徴です。
阿部:竹内さんは、児童の皆さんの探究学習をよく見ていらっしゃると思うんですが、その時に意識していることってありますか?
竹内:ジェネレーター的なスタンスでやっています。子どもたちが私のことを見て、ちょっと触発される、みたいな。
ジェネレーターとは、単に教えるだけの先生ではなく、自分も一緒に参加しながら児童生徒と盛り上がりを創っていく人のこと。
竹内:子どもたちの興味の対象はそれぞれ1人1人違うし、深さも違う。だから、基本はその子に合わせて対応しています。この子はこういう関わりがいいとか、こういう言葉をかけるがいいっていうのはやっぱりある。そして、声をかけながら 自分も楽しむみたいな。
阿部:雑木林、今後はどのように活用していきますか?
竹内:可能であれば、プレーパークのようなものを作って、子どもたちが自然と遊べるような場所をつくったりとか。ここは駅が近いので制約はあるかもしれませんが、ピザ窯とかもできたらいいなって思っていますね。
阿部:学校の中でピザが焼けたら、子どもたちも今よりワクワクしそうですね。
竹内:ダイナミックに色々とできたらいいなって思っていますね。

二項対立を愛する
竹内:探究学習をするとき、自分がやりたいことっていうよりは、本当に子どもたちがやりたいことをやる、自分はその方がいいとは思っていて。勿論自分の野望も伝えるといえば伝えますが…
竹内:ジェネレーターではありつつも、自分の価値観とか、やりたいことに子どもたちが引っ張られすぎないように気を付けなきゃなって思っています。
阿部:確かに…私自身も、私が楽しいことをやって、それを子どもたちが楽しいと思ってくれたらすごく嬉しいなと思いつつ、竹内さんが仰るように、なんかこう…価値観の押しつけになっちゃうというか、そんな瞬間が確かにあるなと思います。そこのバランスというか。コントロールってすごく難しくて。
阿部:竹内さんは、どういうことを意識して、ジェネレーターを実践しているのでしょうか?普段から心がけていることはありますか?
竹内:自分は、授業の後にフィードバックする時間を持っているのですが、やっぱりちょっとやりすぎちゃったかなという日もあるし、もう少しテンションを上げとけばよかったなみたいな日もある。教師がもっとがっつり子供を支援した方がいいという考えと、距離を置いて見守った方がいいという考えの、二項対立みたいなものがあるじゃないですか。
阿部:よく議論されますよね。
竹内:それ、どっちも大事だと思うんです。その【二項対立を愛する】みたいなことを、最近自分はちょっと心がけていますね。
竹内:常にその状況によってバランスは変わっていく。ずっとそのバランスで行けばうまくいくっていうのは無い。だから、日々考えてフィードバックしてってことがすごく大事だと思います。
竹内:自分は結構文章に書いていたりするから。あとから見たときに、この時はこうやって考えていたんだって振り返るのは結構大事なのかなって思っています。書かないと忘れちゃったりするから。
阿部:習慣にするのは、とても大切ですね…
日々書き連ねているnote記事。読めば読むほど惹きこまれます…
Coffee Teacher|note
あたかもそれが自然であるかのように作為する
竹内:もうひとつ。「自然を作為する」が最近はキーワードになっていました。
阿部:自然を作為する…説明頂いても良いでしょうか!
竹内:自然状態だと、うまくいかないことも多いと思うんです。林業でも、適切に間引いたりすること、手入れをすることによって森が健全な状態になる、つまり自然でいられるみたいな。
阿部:そうですね、まさしく林業はその通りだと思います。
竹内:それに加えて、自然を手入れすること自体も大切なんだけど、それがあたかも自然であるように作為するのも大事っていうことなんです。東浩紀さんのルソー批評の文脈で出てきた言葉です。『訂正可能性の哲学』という本で紹介されています。ルソーはエミールが有名ですね。
「エミール」とは、社会契約論でおなじみ、ルソーが書いた現在まで読み継がれる教育学の名著。私も大学の講義で何度も出てきたのを覚えています。
阿部:誰も何もしてないけれどこうなったよという雰囲気を出す、みたいな感じでしょうか?
竹内:こっちの思惑がゴリゴリすぎちゃうと、不自然だから、違和感を覚えたりするんですよね。場のデザインとかが分かりやすい。例えばワークショップを実施した時に「対話をさせよう」という気持ちが前面に出ちゃうと何となく対話しづらくなるじゃないですか。
阿部:あー!分かります(笑)
竹内:そう言わずに、場の設計のみで自然と対話が誘発されるようにする。「あの時のこと振り返ったら、対話をしていたな」というのが自然を作為するっていうことの捉え方なんです。今のこの場も然り、結構それを意識していますね。

竹内:授業もそうですけど、場の設計をして、子どもたちが自然と自然な状態を出せるように、ある程度こっちで作為をするっていう。でもそれは決して見せない。
阿部:木田さん。これ、めっちゃくちゃ難易度が高いことですよね。
木田:本当ですね。会社でも色々目的があって会議をやったりしますが「こういう話をしよう」をストレートで言っちゃうと、何かわざとらしくて、狙ってたような対話にならないことがあるなと感じていて。それが自然とそうなる仕掛けは大事だと思うんですけど、中々できない。
阿部:私も小学校の林間学校の指導を行うときに、子どもたちが主体的に探究学習に取り組めるような場の設計を考えてみるけれど、難しいというか、いつも悩みますね。
竹内:難しいですよね。里山などでは、適切な作為が加わり、人間を含めた生き物があたかも自然かのように共生している。それを学校教育でもできないかって思っています。
テーマは「好奇心と遊び」
阿部:今、竹内さんは教員以外にも様々な活動をされていると思います。どこまでが仕事なんでしょうか?
竹内:遊びと仕事の境目が溶けている感じがしていて、何が仕事なのかっていうのが定義しづらくなっている感じがするんですよね。自分に対してフィードバックをしている時間もだし、コーヒーを広める活動も、授業に取り入れてみたり…そういうのが、今こういう話をしているという所に繋がっていて。
阿部:確かに!
竹内:学びと遊びと仕事が、全部一体化していて、なんだか良く分からない感じなんです。
阿部:どんな気持ちで毎日を過ごしていることが多いですか?
竹内:割と「楽しい」が一番強い。全然苦にならないんですよね。自分の好奇心で常に動いているという感じで。
竹内:自分のテーマが「好奇心と遊び」なんで。
木田:いいですよね。好奇心。誰もが知っている言葉だけども、やっぱりいい言葉。
阿部:うんうん。面白がれるというか、そういう気持ちが世の中を動かしていくんだと思います。好奇心ってとても偉大。
竹内:そうなんです。好奇心に従って動いているから何してもそんなに疲れない。
阿部:ちなみに、それぞれの活動はどこかで繋がっている感じでしょうか?
竹内:繋げちゃいますね。そこに楽しさを覚えて…
竹内:「これってここに繋がってたの!?」みたいな。繋がりがないものを繋げることに喜びを感じています。点を沢山打っておいて。あとで自分で星座を創るみたいな…「あれ、なんかこの星座に見える」みたいな。

「Coffee Teacher」という生き方
普段は「Coffee Teacher」として、子どもたちに負けずコーヒーの探究学習に誰よりも情熱を持って取り組んでいるという竹内さん。
阿部:今後の目標はありますか? 先生として、生き方として…
竹内:先生としても、生き方としても共通するところは「好奇心のままに生きていたい」ということ。
竹内:今、Coffee Teacherとして活動もしていて、来年は全国に足を運んでコーヒー豆のPRもしたいなと思っています。リュック1つで飛び込み、ひたすらやった先に何が見えるのか。1年後、さらに新しい道が見えるんじゃないかなと思っています。今はそれが一番やりたいことですね。
阿部:子どもたちの探究学習のお手本のような活動になりそうですね。
竹内:その通り、自分の探究でもあるんです。色々やってフィードバック貰って、より深めていって、そのサイクルを繰り返して…それを子どもたちに伝えたりもして。

竹内:それが、セルフケアになるし、なによりも面白い「遊び」になる。こういった探究学習を学校教育で取り入れられればいいなと思っています。公教育でもここまでできるということを自分が体現し続けられたらいいなって思いますね。
阿部:公教育の枠組みの中で、こんなに自由に活動の幅を広げているって、とてもワクワクします。
竹内:それと、今後どうなっているかは分かりませんが、「Coffee Teacher」という仕事ができたらいいなと。この仕事が何なのか、私自身も良く分かっていないですが(笑)
阿部:なるほど。先日私、とある人に「あなたはなんの人なのか」という質問に簡潔に答えられるようにという風に言われたんですけど。聞いていて「Coffee Teacher」というのはまさしくそれなんじゃないかなと思いました。これから中身が決まっていくものでも、変わっていくものであっても「自分はこれだ」というものは変わらない。
竹内:そうですね。自分が今考える「Coffee Teacher」をやっていくうちにどんどん意味合いは変わっていくような気がしています。
阿部:「Coffee Teacher」は生き方というわけですね。
先輩に怒られ学んだ20歳の頃。まずはやってみる!
竹内:思い返すと、今は色々と考えるようになりましたが、20歳の時とかは全然何も考えてなくて。
竹内:当時参加していたボランティアの団体に、10歳上ぐらいの方がいて。その方に、お前は何も考えてないと言われ、「これ考えろ」とか「もっと本読め」みたいに毎日説教されていましたね。
阿部:今の竹内さんからは想像ができないですね。
竹内:そして、ある時海外旅行…1人旅に行った方がいいと言われたんです。そして、その次の年にベトナムに行ったんです。
阿部:ベトナムですか!
竹内:はい。それが初めての海外旅行で、1人で行きました。
阿部:言われて実際に行ってしまう行動力はその時からだったんですね。
竹内:沢山説教されましたが、「確かにそうだな」と腑に落ちるところが多かったんです。だから説教されてもまたその人の居る場所に行っていたし。そういう感じの20代だったんですが、今思えばそこから、人生における色々なものが動いていったような気がします。
阿部:そうだったんですね…
竹内:やりたいことがあったら行動にすぐ移せるのが20代だと思います。その後に学びが絶対にあるし、自分はそれで結構成長できてきた部分もあるので。若い人たちにはぜひやってほしいと思いますね。

まさに探究学習の最前線!自然から感じ取れる「余白」は、学びのよりよいスパイスになっていそうです。なにより、竹内さんが持つ生徒の巻き込み力や、好奇心で進み続ける姿にとても活力を頂きました。これから、「コーヒー×森」のイベントも企画してみたいとのこと。まだまだ繋がりは増えていきそうです。今後も活動の様子を追っていきたいと思います。(ライター・maya)
TEXT:maya Photo 木田正人,竹内英雄