東京の森へ行きたくなるメディア

kokyu.media

インタビュー 2024.11.29

TEXT:maya  Photo 木田正人

職人の技に魅せられて。林業への挑戦!

矢吹 礼さんのプロフィールを見る

この記事をシェアする

最近、林業に携わる若者が増えてきています。今回インタビューを行ったのは、東京チェンソーズに今年の春(※2024年当時)から入社した23歳の矢吹礼さん。周りも自分も林業に関わる人は0の状態からこの世界に飛び込んだ矢吹さんが感じる等身大の「林業」についてお聞きしました。

きっかけは、メキシコで見た1本の動画だった

矢吹:メキシコにいた時、日本人として誇らしくなった部分が結構ありました。職人みたいな【技を持ってる人】ってかっこいいなって。

阿部:それで、就職先探しのヒントになったわけですね。

矢吹:そうです。もう帰国があと2、3ヶ月ぐらいに迫ったぐらいの時期に「そろそろやばい」と慌てて就職先探しを始めて。最初は宮大工とかも調べていたんですけど、たまたま林業が出てきたんです。

阿部:おお!それは、どんなものでしたか?

矢吹:「空師」の動画でした。チェーンソーを持って木に登って伐っていて。しかも、神社の御神木みたいな、ものすごく大きな木だったんです。

※空師とは:木に登りながら枝の剪定や伐採を行う職人のこと。木よりも高い建物が存在しなかった昔、”空に一番近いところ”で仕事をしていることからそう呼ばれるようになったのだとか。なんだかロマンチック…

矢吹:なんかこう、ビビッと来た感じがありました。そこから「林業いいかも」と思い、さらに調べたんです。最初は何も情報がなかったので、インターネットでとりあえず出身の神奈川県から調べて、そのあとお隣の東京も調べてっていう形で。

阿部:それで「東京チェンソーズ」を見つけたと。

矢吹:自分の性格上、人がやっていないことをやるのが好きなんです。そう考えたとき、林業って周りにやってる人が誰もいないなと思って。22歳まで、僕の人生の中で林業をしている人にも会ったことないし、林業のニュースも見たことないような感じでした。

阿部:「人がやっていないことをする」、なるほど…

丁度、東京チェンソーズの求人があったタイミングと重なり、帰国後はまずインターンシップを経て、入社する事になりました。矢吹さんのラグビー部時代、メキシコでの林業との出会い、そして東京チェンソーズへ入社するに至るまでは、以下の記事もご覧ください。
↓↓↓
ラグビー×林業【チェンソーズpeople #4】|山仕事承ります/東京チェンソーズ

阿部:周りの人の反応はどうでした?

矢吹:「何をするの?」を聞かれて「林業です」って言ったら、「林業!?」みたいな(笑)

阿部:そりゃびっくりしますよね…

ラグビーも林業も、補い合うことで成り立つ

阿部:以前、チェンソーズのインタビュー記事でも答えられていましたが、今の矢吹さんはラグビーから形作られたものが多いんですよね

矢吹:ラグビーでは、やらなきゃいけないことをやるということ、守らなきゃいけないものを守るということ。そういうことを僕は学んだような気がします。

阿部:例えばどのようなものでしょう?

矢吹:シンプルなことですが、ゴミ拾いとかトイレ掃除とか。誰がやってもいいんだけれど、誰かがやらなきゃいけないことをきちんとやる。もちろん能力的にできないことは他に補う人がいる。そういうことで社会は成り立つんじゃないかなって。

阿部:なるほど。

矢吹:それは、ラグビーをやってて勉強になったことの一つです。今、林業の現場も同じで、僕は新人だから先輩に作業スピードが追いつかないんです。だからそれ以外…例えば荷物運ぶとか、自分でもできるようなことを代わりにしています。

総じて楽しい「山仕事」

阿部:最初の切り口は「誰もやっていないことをやりたい」という興味から林業という世界に入ったと思うんですが、今はどうですか?

矢吹:もちろん、体力面で辛いこともあるんですけど、総じて、山で仕事するのが「楽しい」と素直に思います。体を動かして、 汗をすごいかいて、お腹がすごい空いて…っていうのが、結構気持ちいいんです。

阿部:情景が目に浮かびますね…。仕事以外のご友人やご家族にも、林業の仕事について話したりするんですか。

矢吹:話したいんですけど、今はあんまり興味持ってもらえないっていうのが僕の正直なイメージですね。「そうなんだ。不思議なことやってるね」ぐらいで終わる感じ。

木田:まず、知らないとそうだよね。説明しても分かりづらいし。

矢吹:特に僕の世代とかの友達は、本当に興味持たないなというイメージ。泥臭い仕事をやってるみたいな。そんなふうに思われてると思いますね。

阿部:まだまだ、林業の素敵な部分が一般の方には伝えきれてないのかもしれないですね。私も頑張ります!

阿部:仕事の話をするなかで、ご友人と比べるとどうでしょうか?

矢吹:留学から日本に帰ってきた頃には、もうほとんどの同級生が2年目に入っている頃でした。話を聞いていると、よく言われる「社会に揉まれる」というようなことを体験し、休職しちゃったり、辞めちゃったりっていうのが多かったんです。

阿部:うんうん。

矢吹:林業って、もちろん伐倒は2人作業なのでコミュニケーションは必要なんですけど、割と求められてるものの中で、1人作業みたいなことが多いと感じてます。なんというか、あんまり他の人のことを気にしなくてもいい。

阿部:林業でのコミュニケーションは、いわゆるオフィスでの仕事とはまた違うものになってくる、というわけですね。1人で自然と向き合う時間というのも存在しているし。

いつか、日本の技を世界で試したい

阿部:今後の目標はありますか?

矢吹:あんまり先の未来は考えず、1年後ぐらいのことを考えている。例えば1年後、どれだけ仕事の質があがっているか、どれだけ質問しないでできるかとか。

阿部:まずは、しっかりと現実的なところから、ですね!

矢吹:それと、いつか海外で林業をやりたいっていうのは思っています。 留学中に林業をやろうと思ったきっかけも、日本人としての職人の技がかっこいいと思ったことが一番大きいので。

阿部:原点に返るという感じで、素敵ですね。行ってみたい国はありますか。

矢吹:やっぱりドイツですね。機械も土地も違いますが、自分達が普段、日本の中でも東京っていう割と急峻な山で林業に携わっている中で見につけた能力を、どこかで活かしてみたいと思っています。

コロナ渦だった大学時代が与えてくれた時間

阿部:「呼吸の時間ですよ」では、毎回20歳の頃に何をしていたか聞いているんですが、序盤に話していたように、思いっきりコロナ渦でしたよね。

矢吹:そうですね。ずっとバイトをしていました。 この時間に何かできるとしたら、バイトぐらいかなと思いました。

阿部:私も同世代なので全く同じでした。そういった状況の中では、考える時間が大量に与えられたんじゃないでしょうか?

矢吹:ほんと、考える時間しかなかったです。 年上の方々からは「もったいない」とか結構言われるんですよ。大学生活何もできなくてもったいないとか。でも逆に、何もできない期間だったからこそ、沢山考えて、そこから見えたものがあったのかなと思います。

阿部:その期間あってこそのメキシコ、そして林業との出会いで今に至っているわけですもんね。矢吹さんにはまた、1年後とかに話を聞いたら面白いかもしれないと勝手に思いました(笑)これからも応援しています!



メキシコに行く、全く関わったことのない林業に飛び込むなど、矢吹さんの一度決めたら真っ直ぐ行動していく様子は、同年代から見てもとてもまぶしい!これからの日本の林業を支えてくれる頼もしい存在です。林業に対して、大変そうというイメージを持っている方もいると思います。それは勿論正解で、体力的に大変なこともあれば、安全面への配慮は欠かせません。一方で、矢吹さんの話にもあるように、私がこの目で見て聞く林業はやっぱり、とってもかっこいい。まさに職人技。そんな素敵な部分をこれからも沢山の方に伝えたいと強く思いました。(ライター・maya)

TEXT:maya  Photo 木田正人

この記事をシェアする