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インタビュー 2024.04.24

TEXT:maya  PHOTO:金久保誠、木田正人

日本の竹でみんなをびっくりさせたい!「Spedagi(スペダギ)」で地域がつながる

藤田咲恵さんのプロフィールを見る

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一般社団法人Spedagi Japan(スペダギジャパン)の代表理事であり、東京造形大学で非常勤講師を務める藤田咲恵さん。【日本の竹で自転車をつくる】という挑戦を通して、日本の地域の課題解決に取り組んでいます。今回、取り組みについての想いと、藤田さんが今の活動に至る背景、今後の目標についてお聞きしました。

地域の素材でなにか”いいもの”をつくる

阿部:まずは、藤田さんが代表理事を務めている「Spedagi Japan」の活動内容や、目的を教えてください。

藤田:Spedagi Japanは、インドネシアのデザイナーであるシンギー・S・カルトノ(以下シンギー)が、「地域の素材で地域の人と何かいいものがつくれないか」という考えではじめたSpedagi という活動に共感して創った団体です。

 Spedagiとはインドネシア語の自転車「Sepeda(スぺダ)」と、朝「Pagi(パギ)」からなる造語で「朝自転車に乗る」という意味を持っています。自転車のフレームを地域資源であるジャイアントバンブーでつくったバンブーバイクが活動のシンボル。ジャイアントバンブーは、日本の竹より太く、株立ちという特徴があります。シンギーさんは、その名の通り早朝自転車に乗って村を巡っては村人たちが抱える様々な社会的課題の相談に乗り、デザイン的視点からのアドバイスを提供しているといいます。

藤田:インドネシアでは、今人口がとても増えている。それでほとんどの人が小さい村からジャカルタとか大都市に行っちゃうんです。皆が都心に行って村が無くなるのは悲しい!ということで。村には沢山バンブーがある。それを使って自転車を作って、地域の人と交流する。それがSpedagiでやっていたことなんです。

藤田:「バンブーで自転車つくれるなら、日本の竹でもつくれるじゃん」というのを思って。それをずっとトライアンドエラー、エラー、エラー…という感じで(笑)

阿部:エラーが多め(笑)

藤田:Spedagi Japanは、シンギーの活動を広めるというのもありますし、竹で自転車をつくるということも目標としてあります。あとは地域の素材をいかしたものづくりという目標も。日本も似た課題を抱えているので、最初は山口県の阿東地域というだいぶ過疎が進んでる場所で、法人としてやり始めました。その後、私が東京に引っ越したこともあって、今は法人ごと東京に移動させています。

学生も地域の人も。「竹」をキーワードに集まってくる

木田:今、藤田さんは東京造形大学で授業もされてますよね。学生さんは何人くらい関わっているんですか?

藤田:30人くらいだと思います。

木田:授業の中で竹林の整備とか色々やってるということでしたけど。

藤田:はい。学生たちには、まず最初にバンブーバイクを見せたりとか、Spedagi の活動を紹介したりとか。

木田:学生たちは、どういう動機で選択するんでしょう。

藤田:聞いてみると、パソコンの前で作業するのが嫌になったという子が最近増えました。コロナ後に入ってくる子は、自然の中で土を触ったり、木を触ったりしたいという感じの子が多いです。

阿部:私も学部生だった時、コロナがあって。元々森林科学科で森に入ることが多かったので、オンラインになってパソコンの前にしかいなくなったときに、人との交流やフィールドでの実習がなくなってしまって、とてもストレスでした。だから学生さんの気持ちが分かる気がします。

木田:授業のほかに、学外でも竹林整備の活動をしていらっしゃいますが、結構いろんな方が来るじゃないですか。

藤田:東京楽竹団という竹の楽器をつくって演奏する方々や樹木医さんもいたりします。竹林整備って人手が必要なので、好きそうな人には声をかけてます(笑)

東京造形大学の近くには乗馬クラブがあり、授業ではその馬糞をもらってきて竹林に撒いたり、野菜を育てる畑につかったりなど、地域の人との交流も盛んに行われている。”竹”を中心に様々な人が集まる場となっている。

バックパッカーをしていた二十歳の頃

木田:藤田さんは、デザイナーでもありますよね。自転車もデザインされてるんですか?

東京造形大学の近くには乗馬クラブがあり、授業ではその馬糞をもらってきて竹林に撒いたり、野菜を育てる畑につかったりなど、地域の人との交流も盛んに行われている。”竹”を中心に様々な人が集まる場となっている。

藤田:私は企画を立ち上げたり本をつくったりです。やれることはなんでもやってます(笑)。人がいないんですよ…やれることやらないとお金がかかるので、自前で頑張る(笑)

木田:さすが代表理事ですね。では、そろそろ、その代表理事がどんな人かをお聞かせください。

阿部:色々とお聞きしたいことありますが…まずは生まれから。

藤田:福岡県です。福岡県の北九州市という所で育って、高専(高等専門学校)で化学を専攻していたんですね。その頃から、地球温暖化がよく言われていて、私もそっち系でなにかしたいなと。でも、高専に5年行ってるうちに、化学が嫌になっちゃって(笑)

その後、「何か作りたい」という気持ちから、福岡を飛び出し、東京・渋谷の桑沢デザイン研究所というところで3年間学んだ。そこで現在の活動を共に行う、当時、先生をしていた本田圭吾先生と益田文和先生との出会いがあった。

藤田:「環境問題に対して一番悪いことしてるのはデザイナーだぞ、そういうデザイナーになるなよ」と強く言われました(笑)。元々環境問題に関心があったので、地球環境に対して悪いことをするデザイナーになりたくないなって。

藤田:最初は地場産業に関わりたいと思って、陶器会社に就職しました。そこを辞めたあと、「アートといえばフランスだ」って思って、1年フランスに行って福岡戻ってきて。そしたら、私の好きな益田先生が隣の山口県でオープンハウスというデザイン事務所を開いていて。そこで一緒に事務所づくりを手伝った流れで、(今の活動に)するっと入りました(笑)

阿部:フランスに行くって結構決意が必要ではないですか?

藤田:私は1人でバックパッカーとかもやっていたんですよ。学生の時。だから、そもそも海外へ行くことに抵抗は無かったです。

木田:どのくらいの期間行っていたんですか?

藤田:夏休みになったら行く、春休みになったら行くという感じです。休みの度に行ってましたね。

木田:どの辺に行ったんですか?

藤田:東南アジアは、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナム、インドネシア…そんな感じです。

学生時代、東南アジアを長期休みに飛び回っていた藤田さん。その時に見た「地域のもので何かをつくってそれを路上で売ることが、生活として根付いている風景」を綺麗だと感じたそうで、現在の「Spedagi Japan」におけるサステナビリティの活動にもつながっています。

藤田さんとSpedagi Japanの挑戦はつづく

阿部:地域のものをつかってサステナビリティを考えていくみたいなことを、Spedagi Japanでやられてると思うんですけど。今後どんな地域や社会を目指しているのでしょうか?

藤田:Spedagi Japanは、相変わらずずっと細々と活動して、地域の方々とつながって、地域の文化とか素材とかを掘り起こすというか。一緒に新しいものをつくるとか、発信するとか、表現の仕方は色々あると思うんですけど、そういうのをやっていきたい。大学の方では学生と一緒にフィールドワークをずっと続けて、いつか竹の自転車が出来ればいいなって思ってます。難しいけど。

阿部:今進捗度でいうと、何%くらい?

藤田:1回日本の竹で、完成したんです。それを試験場に送ったらすぐバキッて壊れちゃって。ゼロに戻りました(笑)

阿部:本当にトライアンドエラー(笑)

藤田:バンブーバイクをつくったところで、竹の消費量として考えた場合はチップにした方が多い。でも、そこら辺の竹で自転車ができるよってなったら、「えっ!」てびっくりする。びっくりさせたいんですよね。そして、そこから背景を探っていくとこういうストーリーになってたんだって。シンギーは「マグネットだ」って言ってます。人が集まってきてお話する。そういう感じのものが出来ればいいなって思います。

阿部:きっかけですね。

藤田:竹で色々活動している人は多いですが、その中で私は国産の、もっと言えば地域の竹で何かできればいいなと思ってます。

木田:日本の竹で、びっくりさせると。

阿部:びっくりしたいです(笑)

藤田:それができるようになると良いです(笑)


竹林問題は日本における社会問題の1つ。しかし、昔のようにきっと竹も地域の豊かな財産の1つになるし、人と人がつながるきっかけになる。東南アジア諸国の生活をその目でみて、生きる上での豊かさを考えてきた藤田さんのお話を聴き、私自身も身近にあるものの豊かさにもう一度目を向けてみたくなった。

TEXT:maya  PHOTO:金久保誠、木田正人

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