ウェブマガジン「greenz.jp」の編集デスクを務めるほかに、国際学生寮の館長や蔵書室の運営に携わる廣畑七絵さん。忙しい中、東京・檜原村の森を定期的に訪れている。 この日も多摩川の上流・秋川沿いのフィールドで行われていた“ブッシュクラフト講習”に子どもと参加。森と触れ合うことになったきっかけや想い、気付いたことなどお聞きしました。
行きつけの馴染みの山がほしかった
木田:そもそも廣畑さんが森に来ることになったのはどうしてなんですか?
廣畑:東京に自分の馴染みの山がほしかったんです。
木田:馴染みの山ですか?
廣畑:私は高知県出身で、小さい頃から山や川で遊んでいました。でも、東京に来てからはどこで遊んでいいか分からなくて…。子どもが生まれてからもどこに遊びに行かせたらいいのか、どこだったら山菜を採っていいのか分からなかったので、どこか“行きつけ”の山がほしいなと思ってたんです。
馴染み、行きつけ…。気やすい定食屋さんのような響きのある言葉。高知の山で遊んだ思い出を胸に、東京でも同じように過ごせる山を求めていたようだ。
廣畑:そうなんです。高知の馬路村って分かりますか? ゆずが有名な馬路村…。近くにおばあちゃんの家があって、毎年遊びに行ってたところなんですが、それで、おばあちゃんの家に行ったら当たり前のようの山に川にと遊びに行ってました。
木田:はい…
廣畑:山を歩きたいし、山菜を採りたい、でも勝手に採ったらいけないじゃないですか。おばあちゃんだったら「ここは誰々さんの山だから採っても大丈夫」って分かっていて、あういう感覚で山に入りたいんです。
木田:なるほど、いい思い出ですね。
廣畑:はい。原点ですね。子どもの頃から、夏になるといとこたちがみんな集まって10人くらいわちゃわちゃしながら、みんなで川入って、温泉入って、でした。
子どもの頃は高知市内に住んでいたという。県東部にあるおばあちゃんの家にも、しょっちゅう行ってたそうだ。ちなみに高知では山を見て方角を知ると話す。「山があるからこっちが北」のように。東京に来たら山がないから方向が分からなかったと。
木田:東京に来たのはいつ頃ですか?
廣畑:大学は大阪でしたが、卒業してからは東京。東京には23歳の時に来ました。今41歳なので18年くらいいます 。
木田:ライターの前はどんなお仕事をされてたんですか?
廣畑:国際協力系の仕事で、いわゆる開発途上国と呼ばれる地域の人材育成支援などをする団体に入りました。
木田:そうした分野に関心があったんですね?
廣畑:そうです、それとライターの両方を目指してました。
木田:どんな感じだったんですか?
廣畑:やりがいはありましたし、ほんとに仕事ばっかりしてましたね。まぁ、忙しかったです(笑)
木田:となると息抜きが必要…
廣畑:好きなスポーツをやってました。
木田:スポーツですか?
廣畑:私、小学校の時からサッカーをやってまして、サッカーはなんだかんだで続けてたんです。が、それ以外は食とか飲みに逃げてましたね。お酒ばっかり飲んでました(笑)
木田:山とか、自然要素はあまりなかったんですね?
廣畑:東京ではできなかったです。みんなでログハウスに泊まりに行ったり、紅葉の時期にちょこちょこ出かけたり、そのレベルでした。
そんな廣畑さんが檜原村の森に来るきっかけになったのが、「greenz.jp」の取材で知った東京チェンソーズだ。
木田:取材してどう思いました?
廣畑:ワクワクしました。森に行くことをより豊かに、森での過ごし方を教えてもらったと思います。その後も東京チェンソーズさんをフォローしてる中でMOKKI NO MORIを知りました。
どこへ行くにも原付に乗ってた大阪時代の二十歳の頃
木田:皆さんにお聞きしてるんですが、二十歳の頃はどんなでした?
廣畑:大学で大阪にいた時ですね…。山に触れるのは高知に帰った時だけで、もうアルバイトばっかりしてました。
木田:そうなんですか…
廣畑:高知から大阪に出たので、電車とか人の多さとか慣れなかったですね。学校から1時間くらいかかるところに妹と住んでたんですが、学校へは毎日原付で通ってました。とにかく電車に乗るのが嫌で、どこ行くのも全部原付。
木田:なんか意外な感じがします。
廣畑:結構発散になってたかもしれないです。旅、というほどでもなく、京都に紅葉見に行ったり、文化人類学のフィールドワークで大阪の北の方に行ったり…。神戸にも行きました。どこ行くにも原付でぐるぐるまわってましたね(笑)
森に来ると、大人も子どもも気持ちが変化すると思う
木田:いま森にはどれくらいのペースで来てるんですか?
廣畑:月に1回くらいですね。
木田:来ずにいられない?
廣畑:ほんとに来ずにいられない。
木田:何がいいんでしょう?
廣畑:自分自身リラックスするのもそうですが、子どもとか、夫を見ていても、何か焦ったりイライラするようなことがあっても、気持ちが落ち着くのが早いというか…。たとえば子どもを叱るとき、いつもなら長引いて、お互い険悪な時間が長いんですが、なぜか森で叱るとポンポンと気持ちが切り替わるんです。
木田:不思議ですね、どうしてなんでしょうね…
廣畑:それは私も不思議な感覚だなと思って。驚き。子どもたちを見ていても、切り替えが早くなるというか、一つのことに捉われ過ぎないことがあるのかなと。
木田:なるほど…
廣畑:何が変化してるか言えないんですけど、絶対に変わってるものがある気がします。
本文中の写真(3枚)は廣畑さんに提供いただきました。
TEXT:木田 正人 PHOTO:木田 正人