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メンバー紹介 2023.01.29

TEXT:木田 正人  PHOTO:木田 正人

修士論文の実験で森に通い出す…

石渡萌生さんのプロフィールを見る

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神奈川県横浜市出身・在住。建築情報学を専攻した大学院時代、MR技術を生かして、1本の木から建築をつくることを試行。その修士研究の実験のため、気づいたら森に何度も通っていたという石渡さん。今回はその実験について伺いました。

木田:では、そろそろ実験について教えてください。

石渡:はい。

木田:まずは実験のタイトルを。

石渡:結構長いんですけど、中山間地域内で自然形状木を建材利用する情報技術の研究みたいな、ちょっと待ってくださいね…、ちゃんとした名前の方がいいですね 笑

木田:はい。

石渡:(スマホで確認)えっと、ありました。「中山間地域内で自然形状木の建材利用を容易にする情報技術の研究」という名前です。ちょっと長いんです。

木田:たしかにそうですね。内容を要約すると、どういうものですか?

石渡:ここでは、現時点で建材として使われていない小径木や曲がり木をまとめて自然形状木と言ってるんですけど、そうしたちょっと癖のある木を建材として使えるようにMRという複合現実のデバイスを使って施工支援するという内容になっています。

大学生時代、建築コンペを企画。

木田:きっかけは何だったんですか?

石渡:大学生の頃、中山間地域で建築コンペを企画したときに、近くに建材として使える素材がたくさんあるのに、人手がなくて使えてないという現状を知ってです。もったいないな、何か活かせたらなと思いました。

木田:はい。

石渡:それから、気候変動や自然の問題にも興味があったので、この機会に森林について、木について学んでみようかなと思って。 伊那谷フォレストカレッジを受講して学び始めて、その繋がりで伊那の山の中に行った時に、森林にどういう問題があるかというのを知りました

木田:なるほど。

石渡:例えば、樹齢が高くて伐期なので、本当はそろそろ伐って、次の世代になってもいい森なのに、伐れない、伐ってもお金にならないという話を聞いて。

木田:はい、お金にならないから、そのままほっとく。何もしない…

石渡:たしかにお金にならないと伐れない、伐らないというのはすごいあるなと思ったので、そこをどうにかできないかと思いました。

小さい、曲がってる、お金にならない木を活かす

木田:なるほど。今回の実験では、そもそも建材としては使わないだろう樹種を使いました。

石渡:そうですね。今回の対象としては、そもそも建材として使われてない、家具用材にするにも小さかったり、曲がりすぎてたりする、お金にならない木を対象としました。

木田:お金にならない木がお金になれば、適切な時期に切ってもらえるようになる、ということ?

石渡:はい、次の世代の木を植えるためのお金になると。次に繋げられるのかなと思って。

木田:で、アブラチャンという木を実験に使いました。

石渡:そうです。よく見かけるけど、お金になってない木ということで。

木田:結果はどうだったんですか?

石渡:まず、立てた仮説が、1本の木からその形を使って構造体を建てたらどうなるか、建てられるかというところだったので、一応、建てられたという点では大成功ではなかったけど、結果は成功だったのかなと思います。

木田:いちおう…

石渡:やっぱりある程度先生と話し合っていく中で、予想はしてたんですけど、いろんな誤差があって、そのデバイス自体の誤差とか、パソコン上で計算するときの誤差とか、元々自然のものなので、乾燥、収縮の誤差があって、ジョイントがうまくいかないところがあったんです。でも、建てるという仮説自体は達成できたのかなというところです。

おもしろい、独創的な研究と評価される

木田:先生の評価はどうでしたか?

石渡:1本の木から何か作る、伐る前からデザインを作るというのは、これまであまりされてこなかったので、先生方から面白いね、もっと続けてほしいという評価をいただきました。

木田:これまで、そういうことをやる人がいなかった?

石渡:はい。それこそ、いま使われてる建材って、そもそも規格材で、長さとか形が決まってるものを買って使うというのが多いです。

木田:使う人がどの長さがほしい、どの形がほしいという前に、規格材を買わざるえないことが多いということですね。

石渡:そうなんです。

木田:それが普及したら、どういう使われ方をするんですか?

石渡:そうですね。今回は小さいアブラチャンの木1本に絞っていたので、小屋くらいのサイズしかできなかったんですけど、5本とか6本使って、ログハウスのもっと変な、鳥の巣じゃないけど、人間が入れる鳥の巣のようなものができたりとか、あるいは椅子を作るとか、家具を作るでもいいと思うし、なんかそういういろんなデザインに使えるのかなと思っています。

木田:作る人はどういう人を想定してますか?

石渡:チェンソーをある程度使える人という制約ができてしまうんですけど、木こりさんみたいに、チェンソーの使い方にめちゃくちゃ長けてる人じゃなくても、例えば家にチェンソーがあってたまに枝切ったりとかしてる人ですね。本当はもっと一般化したいです。

木田:切るところから一回、やってみたいですね。

石渡:ふふふ。

木田:独創的という評価だったんですね、良かったですね。

石渡:ありがとうございます!

木田:建築は「ビフォーアフター」を見て好きになったというお話を前に聞いたんですけど…

石渡:建築に対象を絞ったというか、やりたいと思ったのは高校に入ってからなんです。ただ、その前から文房具とか雑貨、家具とかが好きで、よくそういうお店に行って、ただただ眺めるというか、見てどういう部屋に置きたいかなとか、どういうときに使いたいかなとか、妄想するのが好きでした。


修士論文「中山間地域内で自然形状木の建材利用を容易にする情報技術の研究」は、大学院内でユニークで価値のある研究の功績を讃える「加藤賞」を受賞しました。

〈つづきます〉

※石渡萌生インタビュー第一話「風を感じる場所、瞬間が好き」はこちらhttps://kokyu.media/member/2022/12/09/416/

TEXT:木田 正人  PHOTO:木田 正人

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