先日、都内の小学校・中学校の先生を対象にした森林教室が檜原村で行われました。授業で森林や林業を教えるに当たって、先生自身が実地で学ぼうという試みです。 今回、お話を伺ったのは東京学芸大学大学院2年の前田彩世さん。中学校・技術科と高等学校・工業の教員免許を持つ、教育畑の学生です。 そんな前田さん、実はもう一つ、「木育ガール キキちゃん」としても活躍中なんです。 木育とは、木が好きな人を増やす教育のこと。 では、木育ガールって?
子どもたちに楽しく“木育”を伝えるため、「木育ガール キキちゃん」になる
木田:“木育ガール キキちゃん”を始めたきっかけを教えてください。
前田:学校の木が台風で倒れてしまったことがあったんです。その時、私は木材加工の研究室に所属していたので、その木で何か作ろうと思い教授に話したんですが、そのままでは使えないと言われました。
木田:乾燥してないから使えないということですね?
前田:そうなんです。樹木が木材として加工して使えるようになるまでに乾燥という工程が必要なことを知らなかったんです。技術科の先生として木材加工を教えることになるのに、木材のことが全然わからないことに気がつきました。木は身近ですが、知らないことがたくさんありそうだと…。そこからですね。
木田:そもそも木材加工の研究室に入ったのはどうしてですか?
前田:その研究室では、技術科の教科書を作っていたんです。教科書は教育の基礎になるものなので、その教科書を作るということに興味がありました。
木田:なるほど…。ものづくり自体は?
前田:好きでした。ですので、研究室の勉強もやるうちにどんどん楽しくなっていった感じです。その頃作ったアクセサリーボックスは今も家で使ってます。それに、さっき話した木の乾燥のように、知らないことを知ることも面白かったです。
木田:木そのものにも魅力を感じていたんですか?
前田:木は見ていると心が癒される、落ち着くんです。丸っこい製品が多いからかもしれないですが、かわいいです。
木田:そうなんですね。
前田:そうやって木について勉強していく中で「今は木を伐って使っていく時代なんだ」という話を聞いたんです。驚きました。それまで私が習っていたのは、木は伐らない方がいい、環境破壊だみたいなことだったので、それと正反対でした。
木田:なるほど。
前田:それがきっかけで本を読んだり、勉強するうちに森や林業と環境問題のつながりを知り、また、SDG’sの「陸の豊かさを守ろう」という目標が、「木を伐っていく時代」という言葉とつながったんです。
前田:そこで思ったのが、こうした話は技術科でも社会科でも教えてない、では、どこで教えるんだろうと。
木田:おお…
前田:この話を子どもたちが知る機会はあるんだろうか、これは発信しなきゃと…私にできることは木材を通じて、森林の現状、面白さ、知識を発信すること。木材に関わる教育なんだと思いました。
木田:教育が大事だと…
前田:そうなんです。それをどう学校の授業に入れていくか。それを考えたくて大学院へ行きました。
「木育」という言葉に出会い、”キキちゃん”へ
前田:ちょうど研究室に木育を研究している人がいたんです。でも、木育ってなんだ? と…。私、何でもYouTubeで調べる癖があったんですが、出てこない。YouTubeにないということは、子どもたちがそれを知れるわけがない。それならYouTubeとワークショップで子どもたちに楽しく木育を発信しようと思いました。これが“キキちゃん”を始めたわけです。
木育研究所を設立。今後、活動の拠点となる場を作りたい
「木育研究所」を立ち上げたのは、「木育ガール キキちゃん」としての個人の活動が1年を過ぎた頃…。ちょうど大学院に進学したタイミングだった。
1人で行うワークショップやラジオドラマ、YouTube配信の活動に限界を感じていた。
この先どうしようか、新しいアイデアが欲しいなと思っていた、そんな時。
その後活動を共にする仲間と出会う。
前田:彼女は森林に詳しく、すぐ一緒にやろうかという話になりました…。喋ることが原動力になったんですね。いろいろな人と話すことで仲間が見つかりました。
木田:そうですね、話さないと誰も気づいてくれないこともありますよね。
前田:そんなんです。キキちゃんで1年やったので、話すこともたくさんあったし…。ちょうどいいタイミングだったかもしれないです。
木田:今はメンバー何人くらいですか?
前田:10人くらいです。みんな木が好きで、何か作りたい、子どもと関わりたい、教育に興味があるという人です…
木田:団体での活動は、個人の時と変わりましたか?
前田:団体になってからこそできたのがイベントの出店です。地元・小金井のお祭り「キッズカーニバル」でのワークショップには2日間で100人以上のお客さんが来ました。小学校での授業も増えてます。
木田:今後、団体として目指すことはありますか?
前田:お金が回る仕組みを整えたいですね。団体でやってみて、ワークショップひとつに時間、人、経費どれくらい予算いるのか改めてわかりました。それを賄うにはどうすればいいのか考えてます。
木田:何か具体的なものはあるんですか?
前田:第一段階としてクラファンを実施しましたが、今後はもう少し違うシステムが必要だなと感じ、みんながやりたいことをやれるよう、メンバー1人ずつと話したんです。その結果、意外とやりたい人が多かったカフェでした。
木田:どんなカフェでしょう?
前田:ワークショップやものづくりもできて、アトリエっぽく作品展示したりできるカフェです。将来はメンバーの子育て空間になってもいいです。活動の拠点になるようなところで、今、場所を探してます!
木田:確かに。人が集まれる場所はいいですね。いろんなアイデアが集まってきそうですね。
前田:そうなんです。森に興味がなかった人が、森に興味を持つきっかけを作れるかもしれないですし。
個人的な野望は、「木」といえば“キキちゃん”になること。そしてもうひとつ…
木田:それとは別に、もう少し個人的な目標、野望ってありますか?
前田:個人の野望は、NHKのEテレで冠番組を持つことです(笑)
木田:おお!
前田:さかなクンみたいな存在になりたいです! 木といえば「キキちゃん」になること。今そういう人がいないですよね。
木田:いないですね…
前田:専門家の先生に出てもらって、私はそれをわかりやすく視聴者さんに伝える役割だと思っています。ちょっと専門的だけど、なんか面白そうだなと思ってもらえればと…
木田:森に出会うきっかけにしたいということですね。
前田:はい。それともう一つ、次のキキちゃんを生み出すという野望もあります(笑)
木田:それもいいですね、いつくらいが目標ですか?
前田:どうでしょう、30歳になるまでには、ですかね…
木田:あと6年…
前田:はい、キキちゃんは20代でも、10代でも、なんなら小学生がなってもいいかもしれないです。いろんな世代につないでいきたいです。
二十歳の頃は子どものものづくりを支援する場所でインターン
木田:そんな昔ではないですけど、二十歳の頃はどうしてました?
前田:大学2年の時でした。インターンでVIVITAという会社に行ってました。
そこは会員制で、みんなが自由にものづくりできる場所を提供するところで、子どもの発想したおもちゃを実現させるというプロジェクトを担当しました。私は、死なないペットがほしいという中学生の女の子と組んで、がっちりプログラミングしたおもちゃを作りました。
ちょうど研究室でアクセサリーボックスを作ってた時でもありますね。楽しい時期でした。
木田:逆に辛かったことはありますか?
前田:自動車免許で2回落ちたことですかね。これは21歳くらいだったかな…。小金井の教習所だったんですが、人も車も多く大変でした…
森のこと、木のことをわかりやすい表現で伝える「木育ガール キキちゃん」。今後は拠点となる場を作り、多くの人に木に触れるきっかけを提供したいと話していました。
インタビュー動画もありますのでご覧ください。そして、木育が気になったという方は、木育研究所のサイトをぜひご覧ください。
TEXT:木田 正人 PHOTO:木田 正人