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インタビュー 2025.10.15

TEXT:木田 正人  Photo 金久保誠

子供たちと旅をする〜北極冒険家・荻田泰永さんに聞く③

荻田泰永さんのプロフィールを見る

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2000年以降、毎年のように極地を旅してきた荻田さん。2012年に、新たな旅である「100マイルアドベンチャー」を始めます。小学6年生を対象に国内を100マイル、キャンプしながら歩く旅です。

青木:100 マイルアドベンチャーは、すごく興味があります。冒険には縁のない子供たちが、荻田さんをきっかけに、そこに入っていって、どう 変わっていくのかっていうところに興味があります。

そもそも、なんで荻田さんのところに引き寄せられるんでしょう。今、結構あるじゃないですか、自然体験系の活動は。

荻田:いっぱいありますよね。

青木:その中で10日以上という、ハードという意味では、ちょっと群を抜いてるかもしれないですけど…

荻田:なぜなのかはわからないですね、それぞれ参加の動機は千差万別で…

青木:参加者がだんだん増えてるんですよね?

荻田:はい、増えてきたんですけど、多分、他の野外体験系のものとは一線を画すというか、ちょっと違うんじゃないかという気がするんです。

別に自然体験やサバイバル体験をさせたいわけではなく、旅をしてるだけなんです。だから外食もするし、餃子の王将とか行くし(笑)

青木:旅の間に…(笑)

荻田:他の野外体験系のイベントで、昼飯は餃子の王将ですって、ありえないじゃないですか。

青木:ですよね(笑)。 でも僕はそっちの方がほんと普通だと思います。

荻田:そう、そう。私もその方が普通だと思うんですよ。もう飯盒炊爨以外は認めません、というのは、そんなの不自然じゃんって。

青木:だって隣で、もう飲食店が見えてる中で…


荻田:なんで飯盒やんなきゃいけないの? あそこ行こうよ、それでいいじゃんって。俺もそっち側なんで、旅をしたいだけであって、別に飯盒炊爨したいわけじゃないんです。

青木:そうです。


荻田:結果論ですが、キャンプだけだと、キャンプからしか子供たちの姿が見えないんです。 例えば、ファミリーレストランに行って見える子供たちの姿というか、あ、この子たち、普段家族でサイゼリアに行ったら、こういうふうに食べるんだなとか、あ、こういう会話をするんだとか、こういうのが好きなんだとかね、そういうのが見えてくるわけです。キャンプだけ、飯盒だけでメシ食ってたら分からないんですよ。

1人の子をいろんな角度から見ようと思ったら、キャンプだけでは分からないので、普段のことも見えるようなことがしたいと思ってます。

青木:実は僕らも、子どもたちにこの森と街は川で繋がっていて、海に流れて行くんだと話すんですよ。 でも、実際に檜原村の森に降った雨が川に染み出して、秋川から多摩川を経由して羽田まで続いているというのを実は見てはないんです。


荻田:そうですね、理屈でしかない。

青木:地図を見れば、もちろん分かるんですけど、実際を見ていない。

そんな気持ちもあって、僕はチュービング、他のメンバーはゴムボートで檜原から羽田まで川を下って行ってみることをしました。 もともと檜原村には、筏流しと言って、木材で筏を組んで流したという歴史があるんです。それを体感しようみたいな感じです。その年は2泊3日で大田区の六郷まで行けました。夕方で日没間近だったため、羽田までは行ってないです。その翌年は歩いてみようと、檜原村から歩きました。

荻田:何キロぐらいあるんですか?

青木:70キロぐらいですかね。大人で2泊3日ぐらい。途中、川原でキャンプでしながらです。先ほどの王将と同じ感じで、途中で近くの温泉に入ったり、ビール飲み行ったり…

荻田:はい、はい…(笑)

青木:見える世界が違うというか…
川を下ってる時、川からはもう藪しか見えないんです。ここが東京かっていうぐらいフロンティアな感じがしました。


荻田:いつも見てるものを違う場所から見るとね…。視座が変わると全然変わりますから。

青木:そうですね。その歩くこと自体、非常にいろんな景色がね、ちゃんとリアルに見えるというか、すごく楽しかった。堰堤の近くに行くとなんか汚く、臭くなってくるなとか、でも、全体的に意外と水が綺麗だとか、意外に浅いとかいろんな発見がありました。

100マイルに話を戻すと、荻田さんがやらないと、子どもたちはそういう経験はできないんですよね。

100マイルアドベンチャーのサイトから(https://www.100miles.site)


荻田:はい。

青木:そもそもなぜ、100マイルだったんでしょう?

荻田:そんなに深い理由はないんですが…

大場さんが子供たちを連れて、東海道を歩くということをやってたんですが、自分も10年ちょっと北極を歩いた後に、別に社会のため、世のため、人のためとは全く思ってないですけど、北極だけではなくて、日本でやれること、やったら面白いことがないのかと思っていた時に、自分もずっと歩いてきたから、日本の中で歩くような、そういう旅をしたいなと。

青木:はい。

荻田:で、誰を対象にやるのかと考えた時、やはり子どもだと。

青木:どうして子どもなんですか?

荻田:大人だと絶対文句言うし(笑)。 ちょっと疲れたから休みましょうよとか、ちょっとビールが飲みたいなとか絶対言ってくる(笑)。子供はそういうことを提案してこないんですよね。

青木:確かにそうですね。

荻田:それに、やはり未来をつくるのは子どもたちなので、子どもたちとなんかやりたい…、大場さんがそういう活動をやっていたからというのも思い出して、自分もそろそろやってみようと。

で、100マイルというのは、100キロだと短いなと思ったんです。4、5日で終わっちゃうかなと。

100マイルだと160キロ。あ、これは距離的にいいんじゃないかと。語呂もいいし。それと2桁日数ほしかったんですよ。

青木:2桁日数というのはこだわりですか?

荻田:ある程度の時間をかけて、濃密に過ごしたいという思いがありました。となったら、やはりある程度の距離も必要だなと。そういうのもあって、100マイルにしました。2桁日数、1桁人数ということは最初からこだわってました。

青木:4、5日で終わっちうと短いなとおっしゃいましたけど、やはり時間がかかった方が面白いですか?

荻田:時間だけが大事だとは思わないですが、時間もかなり大事ですね。ある程度時間をかけないと、分からないというか、子供たちの仮面を剥がせない。

青木:仮面を剥がす?

荻田:最初から、全然、素でくる子もいますけども、やはり初めは猫をかぶってるとか、演じてる子もいるので…。信頼関係を作るには時間が必要。

荻田:僕は期間を通してあまりガミガミ言わないんですけど、特に最初のうちは何も言わないです。まだ信頼関係がないじゃないですか。今日会った、昨日会った、初めて会ったで、いくら強く言ったところで分かんないわけですよ。

でも、毎日一緒に生活していて、お互いのことを知って、信頼関係ができてくると、だいぶ強く言えるようになるんです。そうするには、やはり時間が必要ですね。4、5日だと、この子がどんな子か分かり始めた頃にもう解散みたいになって、もったいないです。

青木:非日常のまま終わっちゃったみたいな。でも、それが長くなると、それが日常になってくると。

荻田:そうですね。


(インタビュー収録:2023年5月)


4回目へ続きます。

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TEXT:木田 正人  Photo 金久保誠

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