呼吸の時間ですよ対談企画 第一弾となる今回は、林業から考える建築という考えで、国産材を活用した建築の実践をされているアトリエフルカワ一級建築士事務所 古川泰司さんをお招きして、青空のもと森の中で無題のトークセッション。いざ話し始めると2人の思考や考え方が次々に飛び交います。
メディアを通じて森へのきっかけづくり
青木:きっかけはTOKYO WOOD普及協会の中で、すでに住宅を検討している層だけを見つけるというよりは中長期、将来のお客さんを考えていきたい。いつか自分の家を持ちたいと思っている人たちに情報を届けていきたいよねっていうことでこのメディアは始まりました。
要は木に関心のない層にメディアを通じて森の情報を伝えて、気づいたらその人たちが森に来てる。あれ何で俺が森にいるんだろう。昔は虫も嫌いだったのにみたいな。人を増やしてこうみたいなことを真剣に考えています。
古川:それは、ありえるね。でも今日あのMOKKI NO MORIのフィールドを見せてもらって、素晴らしいなと思ったことがいくつかあって。どうしても山側の人って一般の人目線にならないんですよ。森に来てほしいと言いながらも、来るときに長靴履いて来てねとか、山に入る格好してきてねとか。そこで急に敷居が高くなってしまうんですよね。例えば僕も友人や知人を連れてきたいなと思って「そういう場所なんだけど一緒に行く?」って聞いておかないと、連れてきて「えー」なんて言われちゃうから、何かトラウマになるじゃん。かえって嫌いになられちゃうじゃん。そこの敷居の作り方って、ある程度作らないといけないんだと思うんだよね。
いつでもズカズカとフリーで入ってきていいかどうかっていうのは、ここに来るまでに山歩きしながら青木さんが話してくれましたけど、ちゃんと整えられているなと感じました。山側の目線だけではちょっと難しいなっていう感じを、いろんなところの山を見せてもらったりしている中で感じています。「子供たちをここ連れてきたいんですよ」ってみんな一生懸命に言うんだけど、「ここかぁ」みたいな整備されていない地形の場所に。まぁそれはワイルドでいいかなっていう側面もあるので、子供だったらいいかもしれないですけどね。さっき言ってたもう虫もやだとか、森や山に対してまだ興味関心がない人たちがちょっと面白そうだねって言って、足を一歩踏み入れてもらえる。そういう何か整え方ってすごく大切だと思います。
青木:そうですよね。このフィールドはまさに一般の方を対象に遊びに来ていただいているので、アクセスだったり、利用しやすさは考えています。
古川:メディアを作られてるってのも実はすごく意義のあることだと思うんだよね。山の問題と森林の問題って一般の市民からしたら、どうしても他人事になっちゃってて、自分の生活と関係ないよねみたいになっていますよね。だから日本の森が荒れてても分かんない、日常で手にする木製品がどこの木なのかっていう発想にはならない。
それは一番の危機意識、問題点だよね。じゃどう解決していこうかなっていったときに今日このフィールドをみて、一般の方々を巻き込んで、一緒に森を整えていくっていう仕掛けが優れてるっていうか、素晴らしいなとすごく思ったんです。
流域単位の視点で見る都市の見え方
青木:うちの会社もみんな移住組なので、全然林業に縁のない人たちが集まって、一から仕事を覚えてやっているってところもあるので、ベースが山村生活者ではない町の人間っていうところが一つの特徴になっていると思います。
山が他人ごとというか、本当に自分事になかなかならないっていうのは、どうしても山側も点で情報を伝えてしまっているところがあるんです。例えば木育とかで保育園に丸太を持って行って「これは檜原村で採れた木なんだよ。東京の山から来たんだよ。」って先生も一生懸命言ってくれるんですけど、僕は多分逆の立場で子供だったら、もしかしたら知識として言われて、そうなんだ…っていうのは分かるかもしれないですけど、体感として納得していないというか、知識だけ。そこに移動してきた丸太が今ここにあるで終わってしまうんです。
最近すごく思っていることがあって、流域っていう括りでここの辺りでいうと秋川があって多摩川に合流して多摩川流域があります。流域に暮らす僕たち、私たち、というのがまずベースにあって、その流域の中に海のエリアがあったり川のエリアがあったり、ビジネス街のエリアがあったり、山のエリアがある。そういう僕らの流域の中の森から来た丸太ですよっていうと、なんかイメージしやすくて、子供たちもそうなんだ。って発想になってくれると思っています。情報を遠回りだけど、丁寧に繋いでいってあげることが必要なのかな。
古川:何か学ぼうとすると点になっちゃうんですよね。教える側もどうしても点で教えたり、点で体験させるしかなかなかチャンスが作れないっていうのもあって。だから多面的に感じたり、体験ができるこういうフィールドが必要になってきますよね。さっきの丸太の話は、多分魚の話と一緒ですよね。スーパーに行って魚の切り身売ってて「この魚がね、北海道でとれたんだよ」とか言っても分かんないですよね。次はだから魚河岸とか行ってさ、魚を競るところを見て魚が動いてるねって。そのさらに次ですよ。一緒に船に乗って漁に行くかどうか。
大海原って広いなって感じたそこには、こんなに豊かな魚や資源があるんだみたいな。全部繋がってるわけじゃないですか。そういうことが魚の場合はある程度できてるんだよね。だって泳いでる姿とか想像できますよね。水族館もあるしね。だけど林業館というのはないよね。そういう意味ではここが林業の水族館かもしれない。
青木:それ面白いですね。確かにこの場所に来てキャンプしながら、運が良ければ山でチェーンソーの音が聞こえたり、木を乗せたトラックが走っていたりとか。そういうところが見えたり、リアル木こりが歩いていたり。
古川:このフィールドでもう一つすごい良いなと思ったのは、植林したばかりのところがあれば、植えたんだけど手入れしてなくて真っ暗になって荒れちゃってるところがあったり。間伐で手入れして、下層植生がちゃんと生えてきて、ミツマタの花が咲くかなみたいなところとか。森にもいろいろあるじゃないすか。
いろんな森を見ることで比べられるからそれが「なぜ?」って問いかけが生まれるはずなんですよね。自発的に森を比べてもらえるチャンスを作れているんですよね。これはすごくいい教材だと思うんだよね。木こりが歩いていて、目の前で色々やっていることが見れて、ぐるぐるっと歩いただけで多分子供たちだけじゃなくて大人も気づくと思います「いろんな森があるんですね。」って。
そこでちょっとファシリテートしてあげるだけで、森が大切だって話とか、青木さんとこう話している時間軸があって、植えてから30年50年という時間軸をどう感じてもらえるか。植えたばかりでこれが2、3年というところから始まって、この森はもう50年ぐらいですねみたいな。この50年という時間軸がここには再現されてるわけですよね。時間軸を感じてもらえるかどうかって、すごく大切だと思います。
青木:大切ですよね。本当そう思います。今は本当にスピードの社会になってきていて、だから逆にこの時間軸が新鮮というかね。
古川:そうだね。やっぱりスピードに疲れきってる若者が増えてるね。
青木:と思いますね。だって自分自身もやっぱりそうですもんね。
古川:青木さんもそういうきっかけで森に?
青木:それもありましたね。ただなんていうんですかね、林業会社としていろんな事業をやっているとどうしても短期の目標とか中長期の目標とかって考えますけど、結果も出してかなきゃいけないと考えます。
古川:東京チェンソーズはスタッフが20人以上いるって聞いてさ、給料のこととか考えると僕なんかできないよ。(笑)
青木:ただいいこともあって、それは林業をベースでやってるから長い時間でも考えられるってことです。それが苦じゃないし自然の生業だから。この後ご案内する檜原村おもちゃ美術館もそうですけど、10年20年30年かけて、村を日本で初めての木のおもちゃの村にしていきましょうっていうビジョンとか。長いスパンで考えられるっていうのは、林業をやっている人間の最大の長所だなと僕は感じています。
古川:すごくいい話ですね。それは結局植えてからすぐ使えないのが林業で、今までの社会はそれが駄目だって言われてたんですよね。でもよく考えたら、要するに50年ゆっくり育ててくれるってことは。資産・価値を50年失わずに済む。これってすごいことですよね。
〈つづきます〉
TEXT:金久保 誠 PHOTO:金久保 誠